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学術変革領域研究(A) 令和5年度-令和9年度

尊厳学の確立:
尊厳概念に基づく社会統合の学際的パラダイムの構築に向けて

Establishing the Field of "Dignity Studies":Toward an Interdisciplinary Paradigm of Social Integration Based on the Concept of Dignity

本研究領域では、「尊厳」を総合的に捉え直した上で、その研究成果を社会実装するために、「尊厳学」という学際的な学問分野の創生を目指す。

「尊厳学」ウェブサイトはこちら https://songengaku.jp/about.html

研究概要

 「尊厳」概念はプラトンの「アクシア」をキケロが「dignitas」と翻訳した時からの概念史を持つ。しかも第二次世界大戦後に、この大戦のもたらした巨大なカタストロフィに対抗する理念として重要な意味を付与されるとともに、国際条約や国内憲法によって法益の対象ともなった。それ以降、さらにその社会的重要性は増しており、分断された社会を新たに統合できる規範的理念として国際的に注目されている。特にロボット・AIといった先端科学技術やゲノム編集・iPS細胞研究などの先端医療技術、さらにヘイトスピーチ対策・高齢者介護・「コロナ・トリアージ」・尊厳死などといった喫緊の課題に対して「尊厳」は規範的役割を担い得ると期待されている。
 本研究領域では、これらの問題を学術横断的に検討して「尊厳」を総合的に捉え直した上で、その研究成果を社会実装するために、「尊厳学」という学際的な学問分野の創生を目指す。

研究の方法

 本研究領域は、「理論的・概念史的研究」と「臨床応用的研究」との相互連携(「解釈学的」プロセスと呼ぶ)およびそれに基づく「社会実装」を骨格とする。「尊厳学」の確立のためには「尊厳」理解をまず原理的に確定しておかなければならない。「社会的地位/身分」として「尊厳」を理解すると、これは「生きるに値する/値しない」の優生学的線引きとしての機能を果たしてしまうことになる。そこで「態度適合理論/分析」に基づいて「絶対的価値」として理解することを理論的に確定し、それを踏まえて概念史を再構築した上で、こうした「理論的・概念史的研究」の研究成果を「臨床応用的研究」に繰り込んで現場の様々な課題を「尊厳」の観点から分析・検討する。また同時に、各計画研究班相互の研究成果のやり取りも行うが、そこから立ち上がってくる「臨床応用的研究」の成果を再び「理論的・概念史的研究」に繰り込んで「尊厳」概念を鍛え上げてゆく。さらにこのプロセスの成果に依拠しながら、「尊厳」を学校教育・市民教育・災害教育(防災教育)・介護職員教育等の現場に投入することで「社会実装」の可能性も分析してゆく。
 以上のような研究戦略で「尊厳学」の確立を目指すが、この場合に「ジェンダー学」の成立をモデルとして多様な学術分野にまたがる個別的な「尊厳」研究を統合することを構想している。したがって、各計画研究班の「ジェンダー学」担当者を核とした学術横断的グループを形成して統合の状況を検討して各計画研究班に助言を行う。

期待される成果と意義

1)社会の喫緊の課題である「尊厳死/安楽死」「ゲノム編集」「ビッグデータ」「コロナ・トリアージ」等の臨床応用的諸問題に包括的に対応するために、「ジェンダー学」の形成過程をモデルにして「尊厳学」を立ち上げ、具体的な提言を行う。その上で「尊厳」をめぐる思想や具体的提言、分析等をまとめた論文集(英語版やドイツ語版も含む)や『講座 尊厳』等を国内外で公刊する。これらを通して「尊厳」を新たな社会統合の理念として鍛え上げる。
2)「態度適合理論/分析」の「尊厳」モデルを確立すると同時に、欧米圏と非欧米圏を統合した「尊厳」概念史も提案する。研究成果を世界哲学会議等で世界に発信する。
3)「尊厳学」研究を国際的に継続するために、「国際尊厳学協会(International Society of Dignity Studies)」の設立を目指して研究の発信や蓄積を組織化する。
4)「尊厳」の理念を社会実装するために、学校カリキュラム(災害教育を含む)の提案や市民講座等の開設を行うと同時に、新科目「公共」に関する具体的提言も行う。

当該研究課題と関連の深い論文・著書

・加藤泰史(2022)「人間の尊厳と生命権――コロナ・トリアージと「人間の尊厳」」加藤泰史・後藤玲子編『尊厳と生存』法政大学出版局、pp.23-65.
・加藤泰史(2022)「コロナ・トリアージと人間の尊厳――イタリアとドイツの事例に即して考察する」、土井健司・田坂さつき・加藤泰史編『コロナ禍とトリアージを問う 社会が命を選別するということ』青弓社、pp.18-44.
・加藤泰史(2022)「カントとスピノザ/スピノザ主義」、加藤泰史編『スピノザと近代ドイツ──思想史の虚軸』岩波書店、pp.239-271.
・加藤泰史(2021)「バイオエシックスと生命倫理学の間―医学者の『尊厳』理解」、加藤泰史・小倉紀蔵・小島毅編『東アジアの尊厳概念』法政大学出版局、pp.25-62.
・加藤泰史(2020)「現代日本の生命倫理学と尊厳の問題・序説」、加藤泰史・小島毅編『尊厳と社会(上)』法政大学出版局、pp.265-296.
・Yasushi Kato(2019)“Introduction”, “The Heuristic Use of the Concept of Dignity in Kantian Philosophy”, Yasushi Kato/Gerhard Schönrich (eds.), Kant’s Concept of Dignity, De Gruyter,Berlin/Boston, pp. 1-9, pp. 231-259.
・加藤泰史(2017)「自律と承認」、加藤泰史編『尊厳概念のダイナミズム』法政大学出版局、pp.65-97.
・加藤泰史(2017)「尊厳概念史の再構築に向けて」『思想』岩波書店、pp.8-33.

・最新著書等一覧 執筆・翻訳一覧

研究期間と研究経費

令和5年度(2023)から令和9年度(2027)
452,700 千円

特任研究員 / Research Assistant(RA)

森永駿

1990年鹿児島県生まれ。名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期課程修了。博士(文学)。専門は現象学(特にマルティン・ハイデガー)。現在は、真理論を中心に、後期ハイデガー哲学における人間存在や技術について研究している。

齊藤安潔

1981年茨城県生まれ。名古屋大学大学院人文学研究科博士課程後期課程単位取得退学。博士(文学)。専門は古代ギリシア哲学(特にプラトン)。現在は、古代ギリシア宗教との関連から、プラトンの神学について研究している。





基盤研究(S) 平成30年度-令和4年度

尊厳概念のグローバルスタンダードの構築に向けた
理論的・概念史的・比較文化論的研究

Towards a global standard of dignity as a philosophical concept:
theoretical approaches, conceptual histories,
and cross-cultural comparisons

本研究プロジェクトでは、尊厳概念を多角的な観点から総合的に分析した上で、従来は欧米中心であった解釈に対して、非欧米圏の議論を適切に繰り込んで、社会の民主主義化および多元主義化を推進できるような、多様性を踏まえた普遍妥当的な尊厳概念のグローバルスタンダードを日本から発信することを目指す。

研究の背景・目的

第二次世界大戦後、全体主義のもたらした強大なカタストロフィーに対抗する概念として尊厳は再認識され、「国連憲章」(1945年)以降、「日本国憲法」や「ドイツ連邦共和国基本法」などの各国憲法典、さらに近年の「国連 GC」や「EU 憲法」、「障害者権利条約」など現在に至るまで尊厳概念の重要性は国際的に大変高まっている。
しかも、最近では、脳死・臓器移植・ES 細胞研究・iPS 細胞研究・ゲノム編集などの先端医療技術の社会的受容とともに、AI 革命やロボット技術などの先端科学技術の社会的受容の両コンテクストで尊厳が問題となっている。
これに加えて、移民・難民問題、マイノリティー問題、格差社会などといった現代の多種多様な社会問題は、直接間接を問わず尊厳ないし尊厳の毀損に深く関わっている。その意味で尊厳は規範的概念として現代社会のキーワードの一つになっていると言える。

本研究プロジェクトでは、上記の問題状況を踏まえて尊厳概念を多角的な観点から総合的に分析した上で、従来は欧米中心であった解釈に対して、非欧米圏の議論を適切に繰り込んで、社会の民主主義化および多元主義化を推進できるような、多様性を踏まえた普遍妥当的な尊厳概念のグローバルスタンダードを日本から発信することを目指す。

研究の方法

本研究プロジェクトでは、尊厳概念を多角的な観点から分析するために、欧米圏および非欧米圏の様々な学問領域の代表的な研究者が加わった研究グループを形成するとともに、それを欧米関係(哲学・応用倫理学などを含む)担当班・日本関係担当班・中国関係担当班・韓国関係担当班・イスラーム関係担当班・仏教/インド哲学関係担当班の6班に分ける。
その上で、(1)価値論的アプローチを採用して、(2)欧米圏の尊厳理解を根本的に再検討/整理する。さらに(3)非欧米圏の尊厳理解を新たに掘り起こすとともに、概念史を構築して、最終的には(4)欧米圏と非欧米圏の議論とを突き合わせて比較し統合して、新たな尊厳理解を定式化する、という手順で研究課題を解明し、現代社会の諸問題に応える。

期待される成果と意義

比較文化論的観点を本格的に導入して新たな尊厳理解のために有益な視座や素材を掘り起こすことで、本研究プロジェクトによって東アジアの「生命の尊厳」を射程に含んだ尊厳概念を適切に定式化できれば、尊厳に関する従来の欧米の人間中心主義的な研究に対して、東アジアをはじめとする非欧米圏の視点が理論的にも一定の見直しを迫ることになる。
この時はじめて尊厳研究のパラダイム転換も可能である。研究成果を論文集にして江湖に問う予定である。

当該研究課題と関連の深い論文・著書

・加藤泰史、小島毅、シェーンリッヒ、ウォルドロンほか『思想』(「尊厳概念のアクチュアリティ」特集号)1114 号、岩波書店、184pp.、2017 年。
・加藤泰史、宇佐美公生、ビルンバッハー、クヴァンテほか『尊厳概念のダイナミズム』、法政大学出版局、436pp.、2017 年。
・最新著書等一覧はこちらを御覧ください 執筆・翻訳一覧

研究期間と研究経費

平成30年度-令和4年度
130,500 千円

研究助手/Research Assistant

森永駿

研究助手/Research Assistant
1990年鹿児島県生まれ。名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期課程単位取得満期退学。専門はハイデガー哲学。現在は、初期から前期にかけての真理論を中心に研究している。

久保田進一

特任研究員/Project Researcher
1967年静岡県生まれ。名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期課程修了(博士(文学))。専門はデカルト哲学、生命倫理、心の哲学、AIの哲学など。現在は、心、意識、AIについて、または今後の社会の人間のあり方について関心がある。

Shin’ichi KUBOTA
Project Researcher
Born in Shizuoka prefecture in 1967. I am completed the doctoral program at the Graduate School of Letters, Nagoya University (Doctor (Literature)). My specialty is Cartesian philosophy, bioethics, philosophy of mind, philosophy of AI, etc. Currently, I am interested in mind, consciousness, AI, or the future of human beings in society.

横山浩子

加藤研究室秘書

宮前祐子

科研費HP管理者/Non-research Assistant

加藤泰史 最新執筆・翻訳

最新著書等一覧はこちらを御覧ください 執筆・翻訳一覧

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